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Selfishly

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W`Dな男達 10


~~~ 『W‘Dな男達』 act 10 ~~~




  『 短所も極めれば ―― 特に変わらないが。
     付き合っていけば慣れて個性だと達観できる 』




「大丈夫か?」
身体を支えてやりながら部屋へと入って行く。
「・・・んっ。―― らいじょうぶ・・・」
そんな風に呂律の回らない言葉で言われても信じれるはずがない。
ロイはエドワードの身体を一旦、ソファーに座らせるとキッチンから水のボトルを持って
戻ってくる。
「ほら、エドワード。飲みなさい、少しは酔いも冷めるはずだ」
「ん――――」
差し出されたボトルを受け取ろうとして手を滑らせるエドワードに、ロイは溜息を吐いて
横に座ると、肩を抱くようにしてボトルの口をエドワードに傾けてやる。
サラリと解けたエドワードの髪がロイの頬をくすぐると、妙にそわそわした気分になる。
コクコクと水を飲み干すエドワードの喉が滑らかな動きを見せるのを
ロイは見惚れるようにじっと見つめていた。
今日の訓練でも思ったが、エドワードの身体には余分なものが一切付いていない。
しなやかに舞う体から繰り出される技は、どれも身体能力をフルに働かせているからこそ
柔軟であり強靭な威力を発揮させれるのだ。
無骨で無粋な戦いと云うものも、エドワードが行えば熟練の舞手の舞のように美しく映る。
美しいだけでなく、比類ない強さを見せ付けられて、普段はロイの中に抑え込んでいる
闘争心に火が点かなかったと云えば嘘だ。何度足を踏み出して、自分も一手交えさせて欲しいと
言いそうになったか・・・。
横に鷹の目が付いていなければ、止められていても絶対に訓練に参加していただろう。

楽しそうにエドワードと組み手を繰り広げていたハボックが羨ましくて、
帰り際には少々、子供じみた嫌がらせをしてしまったが・・・。
――― まぁ、あいつなら明日には立ち直っているだろう。
エドワードを独り占めしていた彼が悪いのだと決め付けて、それ以上ハボックの事は
頭から消去してしまった。
この思考をホークアイ辺りが聞いていたならば、それは嫉妬心ですねと示唆したかもしれないが、
彼女はここには居らず、考えていたロイは思いつきもしないままだ。

「ん・・・サンキュー。何かちょっとすっきりしてきた」
億劫そうに解け落ちた髪をかき上げながら、エドワードは背凭れに凭れるようにして座りなおす。
「そうならいいが。―― すまなかった。君の酒量も知らずに飲ませすぎたようで・・・」
飲める事は聞いていたから知っていたし、弱いと云うのも本人が言ってはいたのだが、
食事の席では自分達二人同様に杯を空けていたから、てっきりそれなりに飲めるのだと思って、
美味しいと勧められたボトルを次々と頼んでしまったのだ。
ロイもホークアイもかなりの酒豪の方で、多少飲んでも酔っ払うと云う事もない。
楽しい時間に気分良く飲み続けた結果、帰りの車の中でエドワードがダウンしてしまったのだ。
「・・・別にあんたの所為じゃないさ。俺も酔うほど飲むって事は無かったから
 どれ位飲めばこんな風になるのか判んなかったしさ。
 料理は上手いし話は面白いしで ――― へへへっ、ちょっと調子に乗りすぎたみたいだ」
そう言ってふわりと笑うエドワードに、ロイはまたしても先程の妙な気分を味わう羽目になる。
酒の為か薄く色付いた頬や朱を刷いた目元。
酔っている所為でトロリとした瞳が、艶を醸し出している。
それに・・・・・帰りの車の中でもずっと感じていたのだが、エドワードの華奢な体躯は
ロイには酷く抱き心地が良いサイズなのか、回した腕にすっぽりと納まってくるような
感覚を感じ続けていた。
それが妙に安堵感を生んで、今も回した腕を離せないでいる。

―― な、何か・・・別の事に意識を向けないと。――

どうにも妙な方向に気分が流されそうで、ロイは焦って思考を切り替えようと
昼間の話を口に出す。
「そ、そう云えば昼の訓練は見事なものだったな」
意思に反して残りたがる腕を引き剥がして、ロイはこれ以上動かさないように
足の上で手を組む。
「――― んー? そっかぁ? 俺としてはハボック中佐と勝敗が付かなかったんで
 ちょっと不満なんだよなぁ」
ロイはその言葉に苦笑を返す。
現役でしかも格闘の第1人者とつい先ごろまで一般人で過ごしていたエドワードが組み手をして
勝敗が付かなかった処まで追い上げただけでは納得できないのだろうか。
「そんな事はない。――― 正直、君とハボックの組み手を見ていると、久しぶりに私も
 血が騒いでね・・・。何度、訓練に参加させてもらおうと思ったか・・・・・」
そう告げるロイを不思議そうな表情で見つめ、「ああ」と小さく呟いて頷いてみせる。
「そっ、だよな。今のあんたが一兵卒の訓練に混ざるわけにはいかないもんな」
エドワードの同情するような視線に、ロイは少々驚かされる。
ロイは間違いなくエリートコースを驀進中の高官だ。羨ましがられる事や妬っかまれる事には
なれているが、それを労わられる事は・・・殆ど無かった。
「・・・そうなんだよ。上に上がれば上がるほど、立場上の制約も大きくてね。
 つまらん見栄や矜持の為に簡単には動けなくなる」
トスっと背中をソファーに預けて、ロイは日頃溜めていた愚痴を零す。
「う~ん・・・。俺には判んない感覚だけど、あんたが云わんとする事は
 何となく伝わってはくる」
出来る事は階級が上がって権限が広がると増えてはくるが、その代償として
やってはいけない事も増えてくると云う事だろう。
「しゃーねぇんじゃない? 軍に居る時のあんたは軍の象徴の1部なんだからさ」
エドワードからのその言葉に、ロイは瞳を曇らせる。
エドワードの言った事には間違いはない事実だ。軍に所属している限り、ロイは
軍の一部であり個人としては存在場所はないのだから。
がしかし・・・それをエドワードに改めて言われると、胸の中にざらついた
砂粒が入ってくるような気持ちになる。
「――――― そうだな・・・。仕方ない事だ、な・・・・・・・」
それでもそんな気持ちを飲み込むようにして答えると。
「そうそう。今は我慢しろよ。代わりにあんたがTOPにたったら、バンバン改革していってさ。
 つまんねえしきたりとか慣習とか壊していけばいいんじゃない?」
エドワードの続く言葉に、ロイは驚いて視線を向ける。
彼はソファーに凭れたまま目を瞑って寛いでる姿勢のままだ。
「俺は・・・そういう我慢とか配慮とかが足んなくて、どこに行っても上手くいかなかったけどさ。
 あんたには、ロイ・マスタングと云う人間には、それを越えれる力量がある。
 ――― と、俺は思うから・・・」
ロイは唖然となってエドワードを見つめる。薄く開いた唇は何かを告げようとして、
直ぐには返せる言葉が無いまま動けない。
「――― 軍に所属しているあんたは、確かに軍の一部で象徴を背負ってる。
 でも・・・・・背負うのはあくまでもあんたって云う個人が居てこそだ。

 ――――― だいじょうぶ・・・組み手くらい。・・・・・家に戻れたら。
 俺が・・・・・・いつでも・・・付き合うからさ」

ロイは信じられない思いで、隣で目を瞑って話しているエドワードを見つめる。
彼とは・・・、エドワードとは短い付き合いではない。
が、時間で換算すれば二人の付き合いは長いとは言えない。
なのに何故、こうも簡単にロイが抱えていたジレンマを解決する言葉を言えるのだろう。
24時間体制の軍に所属していれば、どこからが公でどこまでか私なのか
判らなくなってくる。切り替えの良い者なら、そこら辺を上手く調整できるのだろうが、
ロイは仕事ほど要領よく分けれない性質なのだ。

――― そうか・・・。そうだな。永遠に続くわけでも、続かせるわけでもない。
    期限付きの事ならば、割り切る事は然程難しくもないな・・・―――

ロイは深い吐息を吐き出すと、今はホテルの内装しか見えない先を視る。
見え難かったものがどこまでも見通せるような爽快感が胸に生まれてくる。
「ありがとう・・・エドワード。君の・・・。?」
礼を告げようとして振り向こうとした瞬間、肩に温もりが宿るのに気付く。
身体を動かさないようして窺ってみると、ロイに凭れかかって眠っているエドワードを知る。
「ふっ・・・」
小さな笑みを浮かべて、ロイは出来るだけそっと体制を動かすと、
眠るエドワードを起こさない様に抱き上げて寝室へと運んで行く。

持ち物が少ないせいか整然と整う部屋を見回し、奥のベッドへと寝かしつけると
暫くエドワードの無邪気な寝顔を眺め、静かに部屋を後にする。


「お休み、良い夢を。私も久しぶりに気持ちよく眠れそうだ」
そう静かに囁いて扉を閉めた。






翌朝。

「・・・んっ?」
部屋に差し込む朝日でエドワードの瞼が開く。
「う~~~ん!!」
寝転んだまま大きく伸びをすると、がばっと勢い良く身体を起こして
ベッドに備えられている時計を見る。
「ふぅあぁ~あ、っと。そろそろ起きるか・・・」
昨日寝付いたのが早かった所為か、目をすっかりと覚めてしまった。
起きるには少々早い時間だが、だらだらしていても時間が勿体無い。
顔でも洗おうと部屋の扉を開けると・・・。

「あんた、何やってんの・・・?」
エドワードが驚いてそう言ったのも仕方がない。キッチンにはいつもエドワードより
早く起きては来ない相手が立っているのだから。
「おはよう。良く眠れたかい?」
「あっ、ああ・・・。ごめん、あんたがベッドまで運んでくれたんだろ?」
そう礼を言いながら近付いて行ってみると。
「――― これ、あんたが作ったのか?」
ロイがせっせと取り分けているのは、エドワードの得意料理(?)のゆで卵だ。
「昨日寝たのが早かった所為か、目が覚めてしまってね。
 これ位なら私でも・・・熱っ!」
「だ、大丈夫か!?」
シンクに掴み損ねたゆで卵が転がった。エドワードは手を伸ばして気をつけて摘み上げる。
「これって―― 冷やしてないのか?」
出来上がったばかりなのか、確かに素手で持つには熱すぎる。
「冷やす? いや、やってないが・・・」
ロイの返答に苦笑を返して、彼が手に持っている鍋ごと受け取ると、
蛇口から勢い良く水を流し込む。
「エドワード?」
折角温めた物をどうして?と思っているのか、ロイが不思議そうな顔をしている。
「ゆで卵は茹で上がったら直ぐに冷やすんだよ。そうすれば殻が剥がしやすくなる。
 逆に置いて冷ますと中の膜がくっ付いて上手く剥がれなくなるんだ」
「・・・なるほどねぇ」
ロイがエドワードを感心して聞いている内に、手際よく水を切ってボールへと移し変える。
「これでよし! じゃあ俺、顔を先に洗ってくるな」
洗面所に行く途中にオーブントースターの余熱をいれ、冷蔵庫からバターやソースを
取り出してテーブルに手早く並べると、パンを数個トースターに放り込んで
エドワードは歩きさって行った。
「――― お見事」
無駄の無い手際の良さに、ロイはつくづく経験の違いを実感した。

出社までの時間があるだろうと戻ってきたエドワードがスープやサラダ等の
簡単な品数を増やしてくれたおかげで、今日の朝食はなかなか家庭の模範に近くなる。
それをゆっくりと楽しむと、それそれの今日の持ち場へと出かけて行く。
「頑張ってきてくれ」
「おう、任せとけ」
ホテルの入り口で別れた二人は、そう声を掛け合って別々の方向へと進んで行く。
エドワードの後姿に揺れる金色の髪が、まるで猫の尻尾のように機嫌よく跳ねている。
そんな光景に笑みを誘われた後、迎えの車が待機している方へと進んで行く。
「・・・大佐。おはようございます・・・」
幾分覇気の無いハボックの挨拶の言葉に、ロイは乗り込みながら言葉を返す。
「朝から何だ、その挨拶は。1日の始まりだぞ。もっとしゃきっとしろ、しゃきっと」
そう発破を掛けてくる上司を、ハボックは目を丸くして見つめ返す。

――― 今日の1日が始まったと云う事は、1日期限までの日が短くなったと云う事だ。――
そう思い浮かべながら、司令部に着いてからの算段を立てる。
期日を短縮する方法は、自分の日々の仕事に掛かっていると思うと、
仕事を頑張る張り合いになる。

ホテル暮らしは快適で不満は無いが、今は少しでも早く住めるようになった家へ
帰りたいと思う。

―― 帰ったらまずは、エドワードと一手組み手をしてもらおう。――


小さな楽しみが明日を近づける気がして、ロイは笑みを浮かべたまま
朝の日が清清しい街並みを眺め続けたのだった。






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